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僕は毎朝
同じ時間の電車に乗り
同じ車両の同じ扉の前に立つ

通勤ラッシュ時間からは
少し遅い時間の電車なので
電車の中はいつもわりと空いている


今年で
この生活は
10年目に突入するんだ


退屈な人生?

そんなことは
全くない


僕には
やりがいのある
自分の能力を十二分に
発揮できる仕事があるし

最近起った私生活の大きな変化も
10年間継続したこの習慣のおかげだ


そう
僕の妻とは最初
この電車の中で出会った

彼女は僕が
この電車に乗るようになって
5年目になって登場した人なんだ


彼女の横顔を見て
僕は一目で恋に落ちた


もちろん
一方的な片思いだ

それでも毎朝毎朝
彼女の横顔を見る日々は
僕に至福の体感を与えてくれた


彼女は
日に日に美しくなっていく

彼女は
日に日に輝きを増していく


その理由を
僕はすぐに見つけることが出来た

彼女の左手の薬指に
キラキラとダイヤモンドの指輪が
光り始めたからだ


結婚したら
もうこの電車に
乗ることはないのかな?

そうなれば僕は
彼女の美しい横顔を
二度と見れなくなる


それから
数ヶ月が経過して
彼女は電車に乗ってこなくなった


遂に結婚したんだ・・・


その後しばらくは
僕の脳裏に彼女の美しい横顔が
残像のようにアリアリと残っていたが

それも時間の経過で徐々に薄くなっていき
彼女の存在は僕の脳から消えてくことになった





そんなある日
僕はまた彼女と再会することになったんだ

再会場所は電車ではなく
僕の行きつけの花屋だった


定期的に
花を買う僕は
その店の長年の常連で

そこにあの
横顔美人の彼女が
新しいスタッフとして
働き始めていたのだ!


それから僕たちは
店で顔を会わすたびに
世間話をするようになった


彼女はOL生活3年目で
寿退社したが1年後に離婚

どうも旦那には
他に女がいたようだ

そして彼女は離婚後

前々からの夢だった花屋での仕事と
フラワーアレンジメントの勉強を
始めたということも知った


僕たちは
お互いに「花が好き」
という1点で
どんどん親密になり

そして
そのうち
僕たちは店の外で
デートするようになり

それから間もなく
僕は彼女にプロポーズをして
彼女は僕の妻になった



彼女のいる毎日
彼女のいる人生

なんて幸せな毎日
なんて幸せな人生



それでも僕は今も
彼女には言ってないんだ

僕たちは最初
電車の中で出会っていたことを



君が僕を知らない時から

僕は
君に

ずっと
ずっと

恋していたことを