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その本は

僕のお気に入りの
エグゼクティブ・ルームの
デスクの引き出しの中で見つけた


このホテルの
この部屋は
何もかもが最高なんだ


間取りも
家具も

あとは
なんといっても
窓の外に広がる風景が
僕の心を軽やかにしてくれる


今日は久しぶりに
この部屋にチェックインした


チェックインした後に
いつも僕がやることは

部屋の中の
見えるところも
見えないところも

自分の私物で
埋め尽くすことで

その時に僕は
この本を見つけたんだ


本とは言っても
その本にタイトルはなく
ただ真っ黒な表紙に覆われていて

だけど
その本の分厚さと言ったら
500ページはありそうなものだった


僕の前に
宿泊していた人の
忘れ物かもしれないと

ホテルのフロントに連絡する
その前に

僕はその本を
少しめくってみた


するとそれは
印刷物ではなく
手書きの文字で
書かれたものだったのだ


それから僕は
時間が経つのも忘れるくらい
その本に読みふけってしまった


なぜならそこには

人間の幸福
人生の成功

それの実現への
事細かなプロセスが
ビッシリと書かれていたからだ


僕が知っていることもあった
僕が知らないことも山ほどあった


人間の極意
人生の極意

それをここまで
言葉にして表現できる

ということが
何より驚きだった


結局僕は
丸一日かけて
その本を読破して

チェックアウトの時には
元のデスクの引き出しの中に戻した


この本は
外に持ち出してはいけない

そう思ったのと同時に

この本は
僕以外の人間も読むべき

そう思ったから



***



それからも
僕は何度も何度も
この部屋に宿泊しているが

あの本は
デスクの引き出しに
置いたままになっている

(だから宿泊のたびに本を読み返している)


他の宿泊客も
誰も持ち出さない?

清掃の人も
誰も気がつかない?


なぜか
分からないが

あの本は
あの部屋の
あの引き出しの中で

ずっと
ずっと

今も
ひっそりと
生き続けているんだ